神の御前では皆等しく愛されている

18.友のちから

ハイスクール時代のある日、ぼくはクラスメートの一人が帰り道を歩いているのを見た。 カイルという名の生徒だ。彼は自分の教科書を全部抱えていた。ぼくは「なんで金曜日に教 科書を全部持ち帰るんだろう。ガリ勉なのかもしれないな」と思った。ぼくは週末に全部予 定が入っていた。パーティーと、土曜の午後には友達とフットボールの試合と…。で、ぼく は肩をすくめてそのまま歩み続けた。

すると、彼に向かって大勢の少年が駆けて来た。少年たちは彼のところまで来ると彼の教 科書を全部投げ散らし、彼の脚をひっかけて地べたに倒した。カイルの眼鏡は宙を飛び、3メ ートルほど先に落ちた。見上げた彼の目に深い悲しみの色が見えた。ぼくの心ははげしく揺り 動かされ、急いで彼のもとへ走って行った。彼は眼鏡を捜して這い回っていた。目には涙が浮 かんでいた。ぼくは眼鏡を彼の手に渡してやり、言った。「何というできそこないのやつらだ、 こんなことするもんじゃないよな」。彼は私を見て言った。「ありがとう」。彼の顔に大きな ほほえみが浮かんだ。心から感謝をこめたほほえみだった。ぼくは彼が教科書を集めるのを手 伝った。

彼の家はぼくの家に近かった。どうしてこれまで会わなかったのだろうね、と聞くと、彼 は私立校から転校したばかりだと言う。ぼくは、私立へ通っている子を一人も知らなかった。 ぼくたちは一緒に帰った。ぼくは教科書の一部を持ってやった。いいやつに思えた。土曜にぼ くと仲間と一緒にフットボールしないかと聞くと、する、と答えた。

その週末、ぼくは彼とずっと一緒に過ごした。うち解けてくると、カイルはぼくだけでなく、 ぼくの仲間ともウマが合った。月曜日の朝、ぼくはからかって彼に言った。「ねえ、きみ、筋 肉もりもりになっちゃうぜ。毎日こうやって教科書全部を持ち歩いてたらさ」。彼は笑って教 科書の半分をぼくに持たせた。

続く4年の間に、ぼくたちは親友になっていた。進路を決めるとき、カイルはジョージタウ ン大学へ、ぼくはデューク大学へ行くことに決めた。いつでも友達なのは分っている。離れる のは問題ではない。フットボール奨学金で、彼は医学を、ぼくは経営学を学ぶのだ。

卒業の日が来た。カイルがスピーチを準備した。ぼくはスピーチする役目でなくてうれしか った。カイルは、見るからに本当に立派だった。彼は、高校時代にまさしく自分自身を見出し、 あらゆる面で向上し、その眼鏡で自己をしっかり見つめた人間だった。ぼくよりもたくさん女の 子とデートし、どの女の子も夢中にさせた。何てことだ! ぼくは何度かジェラシーを覚えたこ とさえある…。この日もそんな日だ。見ると、彼はスピーチを前に上がっているようだった。そ こでぼくは彼の肩をポンと叩いて言った。「最高のスピーチになるさ、きみのことだから」。彼 は、真実感謝をこめたあのまなざしでぼくを見てほほえんだ。「ありがとう」。

咳払いをひとつして、彼はスピーチを述べ始めた。「本日、卒業を迎えるにあたり、多くの 困難を伴ったこれまでの年月の間、常に私たちを支え、励ましてくださった方々に、心からお礼 を申し上げます。ありがとう、お父さん、お母さん、先生がた、兄弟姉妹の皆さん、そしてコー チ…。しかし、私は、とりわけ、わが友に感謝のことばを述べたいと思います。だれかの友であ ることは、およそ人が授受し得る最良の贈り物であるということを皆さんにお伝えするために、 私は今日ここに立っています。よくお分りいただけるよう、エピソードをひとつお話しいたしま す」。

ぼくは信じられない思いで友を見ていた。カイルは、ぼくたちが最初に出合った日のことを語 り出したのだ。

なんと、あの週末、彼は自殺を決意していた。あとで母親がわざわざ学校へ引取りに行かなく てもいいように、いかにして自分のロッカーをきれいに片付け、教科書を全部持ち帰ったか、彼 は克明に語った。彼はほほえんで私をしっかり見つめた。

「幸いなことに、私は救われました。とりかえしのつかないことをする寸前に、わが友が救っ てくれたのです」。ぼくは、この嘱望された一番の人気者が、かつての自分の弱さを洗いざらい語 るのを驚いて聴いていた。彼の両親もぼくを見つめ、あの同じ感謝のほほえみをぼくに見せていた。

そのとき、彼のことばの奥深さがぼくの胸にしみた。

「自分の行ないが持つ力を決してみくびらないでください。人はちょっとした動作ひとつで、他 人の人生を良くも悪くも変えることができます。神は、何らかのかたちで他人に影響を与えるため に、私たちひとりひとりを、他人の人生の前に置かれるのです」

【聖書から】

あなたがたがわたしを選んだのではない。わたしがあなたがたを選んだ。あなたがたが 出かけて行って実を結び、その実が残るようにと、また、わたしの名によって父に願うもの は何でも与えられるようにと、わたしがあなたがたを任命したのである。互いに愛し合いな さい。これがわたしの命令である。(ヨハネ15:16-17)